。僕は面倒くさいから、ただ葉書一枚、どうせ僕のような小説家の友人だから、それを以て勝手に想像してくれ、よく知らんと、それだけ返事をしておいたが……どうだろう。わるかったら訂正の労を惜しまないがね。」
長谷川はチーズをかじり、ビールを飲んでいたが、石山の前にあるウイスキーの瓶に手を伸し、それをビールにまぜて飲んだ。石山の茶化しきった話よりも、千代乃から来た手紙の方が頭に一杯になっていた。細字でぎっしりつまってる幾枚もの紙片が、眼にちらついた。彼女の手紙は、彼女のいつもの話しっぷりと同様、率直であけすけだが、その底に、容易ならぬ決意の籠ってるのが観取されるのである。
「実は、あの千代乃というひとのこと、君に少し聞きたいと思ってたんだ。」
「どういうことだい。」
「いや、どういうひとかと……。」
「どういうひとって、そりゃあ僕にはよく分らんね。まあ、多少ロマンチックで、多少片意地なところもあるらしいし、それだって、三十前後の女はたいていそんなもので、その程度だろうよ。」
「しかし、君はいつかの手紙に、僕があちらに行ってた時のことだが、別館にこれこれのひとが留守居をしていて、少し変り者だが…
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