り、つまり、至って近代的な地下室バーである。
「こんなとこへ呼び出して、済まなかったね。」
最初に石山はそう言って、にやにやしていた。彼が銀座で飲む時はたいてい一度はここに顔を出すことを、長谷川は知っていたが、いま彼一人なのが実は少し意外だった。その上、長谷川が来ると、彼はスタンドでバーテンと饒舌っていたが、長谷川を片隅のボックスへ引張りこみ、女給も遠ざけてしまった。
なにか用件があるに違いないし、あるとすれば、恐らく三浦千代乃のことかも知れない。その長谷川の勘は、正しかった。
「君の腕には、さすがに僕も驚いたよ。」
石山は楽しそうに、やはりにやにや笑っていた。
松月館主人から、石山の許へ、不得要領な手紙が来たのである。
「あまり不得要領なものだから、持って来るのも忘れちゃったがね……。」
先般御紹介を忝うした長谷川梧郎様という仁は、どういう御身分の方なのでしょうか、御差支なくば概略御知らせ頂きたく、妹千代乃となにか訳あるらしく察せられるふしもあり、甚だ失礼の至りながら……云々。
石山はそんな風に暗誦した。
「御紹介を忝うした……はよかったね。なにか訳あるらしく……も名文だ
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