母さんはその方の関係で、針仕事をしたりミシンをふんだり、そして二階は二人の学生に間貸しをして、それでじみに暮しております。私もそのように、自分で働いて生活したく、いろいろ尋ねたり相談したりしましたが、結局、私は気が勝ちすぎているからだめだそうです。自分の腕で働いてじみに暮すには、私には我慢が足りない、辛棒がしきれない、というのでしょうか。
けれども私は、どのような苦しいことでも、どのような辛いことでも、やってみようと決心しておりました。覚悟をきめておりました。敏子さんのように、デパート勤めも致しましょう。伯母さんのように、針仕事やミシン仕事も致しましょう。出来ることなら、ダンスを習ってダンサーにもなりましょう。こちらで旅館の仕事を少し手伝ったことがある経験を生かして、小さな酒場を開いてもよろしく、場合によっては芸者になっても構いません。芸者は少くとも愛情によって行動出来ます。今の私の生活は、檻の中に入れられてる売女に等しいではありませんか。そこから脱出しなければならないと、一生懸命にもがいておりました。気紛れではございません。
それを、伯母さんは少しも真に受けてくれませんでした。あ
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