いるのである。
「僕だって、もう覚悟はしている。その代り、あなたも、あの言葉は取り消しますね。あまり深く想っちゃいけないということ……。」
「あの時はそうだったの。でも、今は違います。」
「では、条件なしですね。」
「ええ、無条件。」
無条件の……降伏か、勝利か……そんなことが、ちらと長谷川の頭に浮んだが、彼はすぐ眉をしかめた。まるで違ったものだ。そして無条件ということは、ひどく自由であると共に、ぬきさしならぬ感じだった。
「無条件に……。」彼女は言葉を探す風だった。「生きていきましょう。」
長谷川は頷いた。
「わたし、東京には、三田に伯母さんがあるから、柿沼のところには行かないで、そちらに泊ることにしているの。あなたのこと、その伯母さんに打ち明けて構いませんか。」
「構いません。」
「分ったわ。大丈夫、打ち明けなんかしません。でも、遊びにいらしてね。いい伯母さんよ。」
「それでも、なんだか……。」
「いやよ。毎日来て下さらなくちゃ、いや……。」
駄々をこねるように、彼女は長谷川の肩に頭をもたせかけて、身体ごと揺った。酔ってるのか、甘えてるのか、恐らくは彼女自身にも分らなかったろ
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