おけば、幾日ももつんですって。」
 長火鉢の前にぴたりと坐り、水色の地に波の白線を大きくうねらした浴衣の襟元をきつく合せ、散らし髪で猪口を手にしてる、彼女の姿は、なんだか情の薄い冷たさに見えた。
 その長い黒髪を、深夜、長谷川は自分の首にまきつけ、心で泣いたことがあった。けれども、眼に涙は湧かなかったのである。
 霧は濛々として、屋内にまではいってくるようだった。
「これ、見てごらんなさい。」
 石山からの手紙を差し出した。
「見ても、よろしいの。」
 彼女はざっと読んだ。反応は示さない。
「ひとを紹介しておいて、悪口ばかり言っている。」
 彼女は微笑した。
「あなたのことも、変り者だと言っている。どこが変ってるのかしら。」
「それは、石山さんの方が、変っていらっしゃるからでしょう。」
「変り者には、普通のひとが変り者に見える、ということですか。然し僕は、石山と親しくしてるが、変り者とは思いませんね。」
「でも、あのかた、女を軽蔑していらっしゃいます。」
「さあ、それはどうだか……。」
「男のひとって、たいてい、女を軽蔑していますが、それを、隠したがるでしょう。石山さんときたら、おおっ
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