がみな、食べられないようなまずいものばかりだ。皆がまずいと云う。彼女は笑っている。女中たちも笑っている。馬鹿げた無駄遣いなのだ。然しそうしたつまらないことが、子供たちを喜ばせ、家の中に一脈の色彩を添えるのだ。
その色彩に、最も敏感な立場にあるのは島村だった。彼はアトリエに籠って、自作の女人像に眺め入ることが多かった。それはみな女体を対象としたものだ。女体には特殊な香りがある。彼はそれを捉えようとしている。然し色彩は? それは女性から来るものだ。殊に若い女性から来るものだ。その色彩の捉え難さを、殊に表現し難さを、彼は自作の像を眺めながら発見するのである。扉の向うの、次の室では、キミ子が、麦桿で壺の底を吹いている。或は何かを読んでいる。それに対して彼は、殆んど女体は感じないが、一種の女性を感ずるのだ。そして彼の眼は、また塑像の方へ向けられる。何かしら或る苛立ちが、彼の胸に欝積してくる……。
そうした苛立ちもあって、彼は或る晩、友人に誘わるるまま、ひどく酒を飲んで、前後不覚に酔っ払ってしまった。初め天麩羅を食いに出かけたのがもとだ。翌朝、自宅の寝床で眼を覚すと、宿酔の気持の上に、腹がしく
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