少しずつ綺麗になっていった。そしてそこに、島村がアトリエにいない時など、彼女と子供たちが集っている。彼女は子供たちに書物を読んできかせるのだ。眼で文章を辿りながら、やさしい言葉に飜訳して話してきかせるのだ。その才能にかけては、彼女は全くのインテリだ。彼女はよくトルストイのものを読んだ。
「むかし、或るところに、お金持の百姓が住んでいました。この百姓に、三人の子供がありました。軍人のセミョーンと、腹の大きなクラスと、馬鹿のイワンで、その外にもう一人、マラーニャという唖の娘がありました。軍人のセミョーンは、王様に仕えて、戦争に出ました。腹の大きなタラスは、商売をするために町へ行きました。馬鹿のイワンは、妹と一緒に家に残って、一生懸命に働きました。軍人のセミョーンは高い地位にのぼり、領地もたくさん出来て、或る貴族の娘と結婚しました……。」(右原文――むかし或る国のあるところに、一人の金持ちの百姓が住んでいた。この金持の百姓には、三人の息子――軍人のセミョーンと、布袋腹のクラスと、馬鹿のイワンと、外にマラーニャという唖の娘とがあった。軍人のセミョーンは王様に仕えて、戦争に出た。布袋腹のクラスは
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