云われますの。どうしてかしら。――似てるんですね……空想家でしょう。――ええ、そうらしいですの。――やはり、南の方の人は、そうですかね。――それきり、話は他のことに移っていったが、それまでのところ、とぎれとぎれにきいたんだが、明かに僕のことだった。話してるのは波江と平賀なんだ。僕は苦しい狸寝入りを続けて、やがて呼び起されるまでじっとしていた。起き上ると、黙って出ていってやったが、雨の中を歩きながら、無性に腹がたってきた。一体波江には、無意識的に男を誘惑する性質がある。昔だって、黒川との結婚のことを相談したりしたのも、真意のほどは分ったものではない。今だって、平賀に僕のことを、さもわけありそうに話してるのも、真意のほどは分ったものではない。たとえ無意識的にもせよ、そういう技巧があるとすれば……そんな風に僕は考えて、やたらに憤ろしい気持に駆られた。而もその憤懣が、一層僕を彼女に惹きつけ、そのためまた更に腹が立った。僕はなるほどばかげた空想家だ。彼女もそうらしい。そして僕がもし彼女に本気で惚れてるんなら、こちらが破滅するか、先方を殺すか、そんなことになりそうな気までした。僕が恐《こわ》くなっ
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