と、すぐに買いに行った。灰皿が一杯になると、掃除を頼んだ。内山が口淋しそうにしてると、鮨でも取りましょうかと言った。万事に細々と気を配っていた。
 内山は酔っ払うと、往々にしてひどく饒舌になった。おばさんや娘さんにくどくどと話しかけ、見知らぬ客へも話しかけた。ソバを食べに来る客たちだから、長居はせず、しばしば入れ代ったが、その誰へでも話しかけた。時によると、中途でふいに黙りこんで、ひどく不機嫌なのか立腹してるのか分らぬ顔つきになった。帰ろうとただ一言、ふいに立ち上ることもあった。
 或る夜、内山が饒舌になってる時、彼と顔見知りの中村がはいって来た。砂利一件の時に来合せていた粗末な洋装の女の亭主だった。彼はもうだいぶ酒気を帯びていたが、焼酎を取り寄せて貰ってソバを肴にして飲んだ。
「内山さん、だいぶ御機嫌のようですね。」
 内山も愛想よく返事をした。
「どうも僕は酒を飲むと、ひどくお饒舌りになりましてね、そのくせ、何を饒舌ったのかさっぱり覚えていないもんだから、あとで困るようなことが起ります。」
「そりゃあ御同様……酒の上のことは、なんでもこう、さっぱりするに限りますよ。聞いたことや見た
前へ 次へ
全22ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング