ことじゃないでしょうよ。」
「それだって、いつも附いて廻らなくてもよさそうじゃありませんか。少し甘いんですね。」
「甘いというより、心配なんでしょうよ。片方は、附いていて貰えば心丈夫だし、片方は、附いていなければ不安心だし、まあ、仲がよすぎるんですよ。」
「仲がよいのは結構なことですけれど、わたしには、なんだかよく分らない……。」
 結局、よく理解出来ないという結論になってしまった。

 内山と朋子が峠の茶屋に来るのは、必ずしも毎日のことではなかったが、後には、少しずつ間を置く傾向が見えてきた。その代り、酒量は殖えてきた。そして、銚子五本を越えると、もう止度がなかった。頑として腰を落着け、おしまいにもう一本と切りぬけ、六という数は面白くないから七にしよう、それよりは八が末広がりでよかろう、八も半端だから十にしてしまおう、打ち止めにもう一本と、巧みに飲み続けた。酩酊の程度は五本でもう充分で、あとは惰性みたいなものだった。
 朋子はつつましく控えていて、杯の数少く相手になっていた。もうおやめなすってはと、やさしくたしなめながら、内山の相手をしてるのが楽しそうな様子でもあった。煙草が無くなる
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