たが、朋子が主として矢面に立った。
 二人は焼跡の草原などで媾曳をしている、という説があった。――これは最も事情を知らない者の放言だった。
 内山は元来、金を使わずに女をまるめこむことが巧みで、朋子を手玉に取っているのだ、という説があった。――私もそういう意見を聞かされたことがあるが、これは明かに悪意ある中傷だった。嘗て内山が、無理算段をしながらさんざん芸者遊びをしたことがあるのを、私は知っていた。
 朋子はただ単に利用されてるだけで、用心しないと遂にはひどい目に逢うし、内山に真の愛情などあるものか、という説があった。――これは前説の延長であって、悪意ばかりでなく一種の嫉妬の念も交ってるものだった。
 朋子は生一本な性情なだけに、なんだか夢中になってるようだが、よくよく注意して進まないと、あとで取り返しのつかないことになって、とんだ汚名を着ないとも限らない、という説があった。――これは彼女の身を案ずる親切な意見で、必ずしも内山を対象としたものではなく、正常な再婚を希望する意も含まれていた。
 朋子は金に吊られていて、月々いくらかの仕送りを受け、まあ生活はこれまでよりいくらか楽だろう、と
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