、しきりに意見を闘わしていた。
「わたしだったら、ばかばかしくて、やめてしまいますよ。」
 奥さんは吐き出すように言った。おばさんはそれに反対した。
「いいえ、はたからはどう見えようと、ほんとうに、お互に好きらしいんですよ。」
「でも、あまり見せつけがましくて……。少し慎んで貰いたいものですね。」
「陰でこそこそしないで、おおっぴらなところが、いいじゃありませんか。」
「若い人たちならとにかく、いい年をして、なんでしょう。」
「だから、却って美しく見えますよ。」
 そんな話から、だんだん細いことに及んでいったので、私にも、内山昌二と山田朋子のことだと分った。
 二人の噂は、もう、近所で知らぬ者はないぐらい拡まっていた。内山は画家として一風変った独身者だったし、朋子は海軍士官の未亡人で、気質も生活も真面目すぎるほど几帳面だったので、その二人が愛情的に結ばれたとなると、而もいい年をしてそうだとなると、これは興味ある話題に違いなかった。その上、二人の行動は世間体を無視してあまりにおおっぴらで、人目についた。
 私が峠の茶屋と呼んでいた中華ソバ屋に、彼等二人は毎日のように現われた。そして皆がソ
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