ほどやって来て、内山と朋子とのことをへんにしつっこく聞きただした。その様子がどうもおかしいし、中村の先夜のこともあるので、おばさんはいい加減な返事をしておいた。それでも、彼女は感心したり、腑に落ちない風で小首を傾げたりしていたが、終りに尋ねた。
「あたしここで、あのお二人に逢ってみたいと思いますが、どうでしょうか。」
「前に出逢ったことがあるじゃありませんか。今でもよく来ますから、いつでも逢えますよ。いったいあんたは、逢ってどうするつもりですか。」
「いえ、ちょっと気になることがあって……。」
 丸っこい眼を宙に見据えてる彼女の様子こそ、おばさんは気になった。
 ただそれだけのことに過ぎなかったが、話題に乏しい人々の間ではいろいろ尾鰭をつけて伝えられた。
 或る晩、私はちょっと一杯やりたくなって、峠の茶屋に立ち寄ると、老眼鏡をかけた婆さんが、おばさん相手にひそひそと饒舌っていた。おばさんは骨休めに、婆さんの向い側の客席に腰を下して、飴玉をしゃぶっていた。
「中村さんも、死んだお上さんも、あの年とった鴛鴦さん二人を、たいへん怨んでいたというじゃありませんか。それには何か訳があったに違いあ
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