とを、さんざん言ったじゃありませんか。」
「何も言やしません。わたしはただ、自分のことを饒舌っただけですよ。それにしても、少し饒舌りすぎたかな。そんならおばさん、謝っといて下さい。その代り、女房のやつにうんと言ってやるから。また喧嘩かな……。」
中村は焼酎をなめて、大きく溜息をついた。
三人連れの客がはいって来た。それがきっかけのように、中村はもう口を利かなくなった。
内山と朋子は相変らず峠の茶屋にやって来た。中村の一件は、全く気にかけていないようだった。
ところが、意外なことがほかで起った。
中村の女房が猫いらずを飲んで死んだ。おどかすつもりなのが間違ったのだ、とも伝えられたし、取り逆せて初めから本気だったのだ、とも伝えられた。中村が峠の茶屋で内山たちに逢った時から十日ばかり後のことで、その夜、夫婦とも泥酔の上で取っ組み合いの喧嘩をやった。女房は階段から転げ落ちたが、怪我もなかったと見えて、また二階へ昇って行った。夜中に彼女は台所へ降りて来て、食べ残りの冷たい味噌汁に猫いらずをぶちこみ、一気に飲み干したものらしかった。
峠の茶屋のおばさんの話に依れば、彼女は死ぬ前に二度
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