言い出すと、もうむくれ返って、どうせわたしは不親切で莫連だとがなり立て、大喧嘩になるのが落ちです。どうもわたしのところでは、内山さんに山田さんは鬼門だが、それがいつも出て来るから、訳が分らない。何より悪いのは、あいつが焼酎なんかひっかけて酔っ払うことでしょうね。だから、奥さん、あなたもあまり酒は飲まない方がよろしいですよ。」
 中村は焼酎のコップから顔を挙げて、なんだか珍らしそうに朋子の方を眺めた。
 朋子は初めから黙っていたが、内山も先程から黙り込んでしまった。銚子が空になると、つと立ち上った。
「帰ろう。」
 朋子が勘定するのも待たないで、先に出て行ってしまった。
 おばさんは朋子に小声で言った。
「あのひと、酔っ払ってるんですから、気を悪くしないでね。」
「いいえ、どうしまして、お互さまですもの。」
 朋子は声も低めずに答え、平然たる様子で、内山のあとを追って行った。
 おばさんは中村の方を向いた。
「中村さん、少し言い過ぎでしたね。いくら酔ってるからといっても、気をつけるもんですよ。」
 中村はけろりとしていた。
「言い過ぎって、何が言い過ぎですか。」
「内山さんや山田さんのこ
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