生意気に、男女同権とかなんとか言い出すんですからね。わたしは断言しますが、女は男より劣ること数等で、食うことと眠ることと饒舌ること以外に、何の能がありますか。」
 中村の話はそれから、次第に乱暴になってきて、まるで焼酎を相手に饒舌ってるかのようだった。
「あいつはいつも、着物を一揃いほしがっていましたが、わたしも不如意で、商売は左前、税金はかさむ、着物どころの騒ぎですかい。商売屋にぼろ洋服では不似合だと、わたしも知らないじゃありません。だが、どうしてああ日本着物をほしがるのか、不思議です。怪しげな飲屋の女中なんかしていたのを、わたしが拾いあげてやった、その恩義はけろりと忘れて、十五も二十も年が違うのに一緒になってやったと、逆にこちらへ恩を着せようとする。女中だって給金を貰うのに、わたしは着物一枚作って貰えず、一生飼い殺しにされるのかと、喰ってかかる。そしてなにかにつけ、内山さんをご覧なさいと来ます。身分違いだといくら言って聞かせても、そんなことは耳にも入れません。だからわたしは、山田さんを見てみろと言い返すんです。どんなに親切にしとやかに内山さんに仕えてるか、少し見習ったらどうだい、と
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