うわけじゃありませんが、あなたがたのことを例にとって、わたしをさんざんに責め立てるんですよ。」
「そりゃあ、僕の方は濡れ衣ですな。」
「内山さんと山田さんお二人をご覧なさい。正式に結婚もなすっていないのに、あんなに仲よく、いつも連れ立って歩いていらっしゃるじゃありませんか。あなたはどうですか。結婚したてこそ、ほんのちょっとやさしくして下すったが、あとはもう見向きもしないで、一度だって、物を食べに連れて行ったり、映画を見に連れて行ったりしたことが、ありますか。わたしはまるで女中同様で、そして御自分はさんざんふしだらをしていらっしゃるじゃありませんかと、そんなことを言い出しましてね、ひどくおかんむりなんです。もっとも、わたしの方にもちょっと後ろ暗いことがあるにはありましたが、大したことじゃありません。とにかく、何か不平がある度に、内山さんをご覧なさい、内山さんをご覧なさいとくるんで、被害甚大ですよ。」
おばさんが、調理場から声をかけた。
「中村さん、そりゃあ、あんたの方が悪いんですよ。もっと奥さんを大事にしてあげなさい。こないだもわたしのところに来て、こぼしていましたよ。」
「然しあいつ
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