りませんよ。」
おばさんは頭を振った。
「怨んでいたんじゃありませんよ。ただ少し、羨ましがってたようですけれど……。」
「それにしてもね、とにかく、ひとを羨ましがらせるようなことをするのは、よくありませんよ。あっちで見せつけるから、こっちで羨むんでしょう。見せつけさえしなければ、誰も羨みなんかしないんですからね。少し慎しみが足りませんね。」
「見せつけるつもりはありませんよ。ただ、たいへん酒好きなだけでしょう。」
「いくら好きだって、まっ昼間から酔っ払ったりするのは、どうかと思いますよ。二人ともいい気になって、人前というものもありましょうにね。あんたがあまり飲ませるのも、いけませんよ。」
娘さんが燗をしてくれた酒を、ちびりちびり飲んでいた私の方を、婆さんは横眼でじろりと見た。
おばさんはいつもの通りにこやかで、温顔を崩さなかった。
「わたしは、ひとから何か頼まれると、いやと言えないたちでしてね。それでも、あの奥さんと諜し合せて、たくさんは飲ませないようにしてるんですよ。」
「ええ、あんたのことは分っています。けれど、どうしてああ勝手な振舞いが出来るんでしょうね。中村さんとの間に、
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