く立ち罩めて、水平線を離れたらしい太陽の光が、それに漉されて茫と白んで、宛も磨硝子を透かして見るような明るみとなっていた。そして不思議な景色を展開してみせた。
 先ず、海の方一面に、低く霧が屯している。それから右手の方、川の流に従って、川口から川上へと、霧の枝が伸び出し、松林の据を廻って見えなくなり、更に左手へは、川口から入江の沼の上を、くっきりと蔽うている。宛も水のあるところにだけ凝り集って、水へもぐろうと低く低く渦巻いてるようである。それらの霧と、青い空と、黒々とした松林との間は、凡て茫とした仄白い明るみで、そよとの風の流れもない。そして一面に露の玉が、真珠の色をなして結ばれている。殊に庭の小松の上には、枝という枝にみな、露の玉をつらねた蜘蛛の巣が、きらびやかに懸っている。
 私は驚いてその蜘蛛の巣を眺めた。今迄気付かなかったのが不思議なくらい、松一杯に蛛蜘の巣だった。庭の松ばかりでなく、傍の小松の原もみなそうだった。蜘蛛の姿は見えないが、経二尺くらいのから掌の大きさほどのまで、大小さまざまの網目が、綺麗に露をつらねて重くたるんでいる。
 太陽はなかなか昇りそうにない。霧は動かない
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