「あなたしておやりなすったらいいでしょう。あなたを呼んでるんですもの」と兼子は答えた。
 彼は暫くじっとしていた。「お父ちゃまよう!」と依子は俄に泣き立てた。彼は兼子の方をじろりと見ながら、思い切って立っていった。人形の片足がち切れて転っていた。彼はそれをくっつけてみた。
「これは駄目だ」と彼は云った。「またいいのを買ってきてあげるから、これはお捨てなさい。ねえ、またいいのを買ってきてあげますから。」
「いやよ、いやよ」と依子は泣き叫んだ。
 彼は依子を腕に抱いてやった。室の中をよいよい云って歩いてやった。然し彼女は泣き止まなかった。しまいには彼も苛ら苛らしてきた。其処に投げつけたくなった。それでも我慢して、いろいろ宥めすかしてみた。依子は遂に泣き止んだが、此度は執拗に黙り込んだ。くるりと顔を外向《そむ》けて反り返った。彼は腹が立ってきた。其処に依子を放り出して縁側に出て屈んだ。依子はまたわっと泣き出した。
 兼子が立って来て依子を抱いた。依子はぴたりと泣き止んだ。
「あなたは子供を放り出して、どうなさるんです。」と兼子は彼へ向ってきた。
 彼は黙っていた。こんなことで争ってもつま
前へ 次へ
全82ページ中69ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング