しましょうか。」
「それでいいでしょう。」
彼は投げ出すように云い捨てた。早くそんな話は切り上げたかった。嫌な気がした。二人が座敷の方へ行くのを見送って、役は暫く佇んでいた。それから二階へ上った。
話の底にはまだ自分の知らない、嫌な事物や手筈やが潜んでるように、彼には考えられた。そして、自身がなきけなくなった。あの時もそうだったが、此度のことでも、彼の意志は殆んど何等の働きをもしなかった。彼がただ一人で考え込んでるうちに、外部からすらすらと事は運んでいった。そして彼はただその後についてゆくの外はなかった。なぜか? と彼は反問してみた。然し答えは得られなかった。……彼は長い間机につっ伏していた。そうだ俺はただ依子を愛してやろう、そう最後に考えた。依子の小さな姿が眼の前に浮んだ。今どうしているだろうかとしきりに気に懸った。階下《した》へ下りて行きたいのを我慢した。縁側の雨戸を閉める音が聞えた。終には堪えられなくなって、階段を下りていった。
依子は敏子の膝の上で、もう眠りかけていた。合さりがちな眼瞼をうっとりと開いて、はいって来た彼の顔を見上げた。淡い安らかな視線だった。然し彼はその頭
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