母様に馴れてるんですもの。」
 それは何も理由にはならない、と彼は思った。それでも彼は依子の方へ歩いていった。依子は敏子と幾代とに代る交る縋りつきながら、綺麗な松葉を拾っては箱の中に入れていた。房々と垂れた髪の下に、曇りない広い額が半ば隠されていた。大きな眼玉が溌溂と動いていた。先だけがぽつりと高い団子鼻が、豊かな頬の間に狭まれていた。口がわりに大きく、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が短かかった。――これが俺に似てるのか、と彼は考えた。抱いてみようという気も起らなかった。皆を其処に残して、ふいと家の中へはいっていった。
 然し書斎に坐ってみると、どうしてもじっと落付けなかった。彼はまた階下の縁側へ出て来た。それからまた二階に上った。また縁側に出て来た。しまいには其処へ腰掛けて、足をぶらぶらさしながら、しいて空嘯いてみた。
 夕食間際に瀬戸の伯父がやって来た。
「一寸廻る所があって大変後れてしまった。……やあ来てるな。機嫌はどうだい?」
 瀬戸はそんなことを一人で云いながら、依子を抱いてきて、彼の腕に渡した。彼は黙って受取った。依子は振り向いて敏子の方を見たが、それから彼の顔
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