拗に子供を見守ってる彼女の眼が、眼には見ないでもそれと感ぜられるその眼が、一種の威圧を彼の上に及ぼしてきた。彼は睥むように瞳を上目がちに見据えて、子供の前に沢山散らかってる玩具を、一つ一つ眺めやった。一本の糸に繋がれてる大きな兎と亀とがあった。畳の上に平べったくなってる亀の姿が、殊にそのふらふらの長い首が、変に気味悪く思われた。立ち上ってそいつを蹴飛したいような気になった。じりじりしてきた。
「さあ、お父様に抱っこしてごらんなさい。」と幾代は云っていた。
「ほんとにはにかみやさんですね、先刻《さっき》まであんなに元気だったのに……。尤も、はにかむ位の子供の方が、頭がよいと云いますが……。」
子供は幾代の影から、そっと頭を上げて、彼の方を覗いた。そしてつと立ち上って、敏子の膝へ飛びついた。片手にしっかり麦桿細工の箱を持っていた。
「まあ、どうしたのです、慌てて……。」と敏子は云った。
彼は眼を外らした。咄嗟の一瞥で、眼の大きな※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]の短い子だということが、見て取られた。それが醜いもののように思われた。
兼子がはいって来た。彼女は一座をちらりと見廻
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