し一緒に暮してると好きになるかも知れない。当然憎むべきお前でさえ、あの子を愛すると云うんだから……。僕は心からお前に感謝してる。お前があの子を愛してくれるのは、僕の過去の罪を二重に浄めることなんだ。而もそれによって、お前自身の生活にも張りが出来てきて、陰欝でなくなるとすれば……。」
彼はふと口を噤んだ。自分でも、本当のことを云ってるのか嘘を云ってるのか、分らなくなってしまった。偽善者め! と嘲る声と、痛切な感激の声とが、同時に心の中に響いていた。
俺はやはり子供を引取りたいのだ! 彼は其処まで掘りあてると頭を一つがんと殴られたような気がした。五年間父親から無視された小さな存在、眼の大きいお河童さんの子、膝を揃えてお辞儀をした子、はにかんで畳につっ伏した子、言葉の上品なおとなしい子、……その上種々のものが眼に見えてきた、小さな手、貝殼のような爪、柔い頬、香ばしい息、真白い細かい歯並、澄んだ真黒な瞳。――誰に似てるのかしら? 彼は敏子の面影を思い起そうとした。然しただ、肉感的な肉体だけしか頭に浮ばなかった。ともすれば、面長な首の細い兼子の姿が、一緒に混同されがちだった。記憶を押し進むれ
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