んな言葉を聞く訳はないと思いました。そして妙に気持ちがこじれてきました。しまいには二人共黙り込んでしまって、どうしたらいいか分らなくなりました。
「子供は無邪気でよござんすね。私達が余り黙っていたからでしょう、私がやった人形を抱いてきてお母ちゃん、これおばあちゃまに頂いたのね、とふいに云い出したのです。けれどもそれがいけませんでした。お敏は子供を引き寄せて、胸に抱きしめましたが、ぽろりぽろり涙をこぼすではありませんか。それを見ると、私は気が挫けてしまいました。どうしたものかと途方にくれてしまいました。……所が丁度、近所の娘さんがお針のお稽古に来ました。お敏は立っていって、お客様だからと断ってるようでした。そしてまた座に戻ると、ふいに、ほんとうにふいに、奥様済みませんと詑びるのです。何で詑びるのか私には分りませんでしたが、ただ、いいえ私の方が余り突然だったものですから、と云ってやりました。それですっかりよくなりました。落付いてゆっくり話をすることが出来ました。私達の気持ちは、向うにもよく分ったようです。四五日考えさして欲しいと云っていましたが、大丈夫承知しますでしょう。」
 そういう話を
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