子が、どうもうまくゆきません。今では兎に角、仕立物をしたり、近所の娘さん達にお針を教えたりして、立派に一家を持ってる身分ですから、昔家に使っていた時のように、ぞんざいな口の利き方も出来ませんからね。
「いつまでそうしていても仕方がないから、思い切って相談を持ち出して[#「持ち出して」は底本では「時ち出して」]みました。兼子さん、あなたの気持ちもよく話しました、なまじっか隠し立てをしては悪いと思って、こちらの事情を詳しく述べましたが、お敏は何とも返辞をしません。じっと畳に眼を伏せたきり、石のように固くなっていました。髪のほつれ毛が震えていた所を見ると、よほど胸を打たれたに違いありません。全くの所、余り突然のことでしたからね。私は、そうした方が子供のためにもよいし、皆のためにもよいということをよく得心のゆくように云ってきかせました。あの当時とは事情も違ったのだからと。……そして、今後あなたの身の上についても力になってあげたい、と云い出しますと、お敏は何と思ったのか、きっと顔を上げて、私の身の上のことは私一人で致しますと、思いつめたように云うのです。私の云い方が悪かったのかも知れませんが、そ
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