ていましたよ。……すぐに分りました。ふいに俥を乗りつけたものですから、怪訝な顔で私を見ていましたが、すぐに私だと分ると、まあ奥様! と云ったきり、上れとも何とも云わないではありませんか。一寸相談があって来ましたと、私の方から云って、座敷に通りはしましたが、何と挨拶をしてよいものか、私も全く困りました。……瀬戸さんに万事お任せしてるものですから、時々噂を聞くきりで、逢ったのはあの時から初めてなんでしょう。……室の隅の方で、小さなお河童《かっぱ》さんの子が遊んでいました。眼の大きな可愛いい子でした。私の方をじろじろ見ていましたが、お辞儀をなさいとお母さんから云われて、小さな膝を揃えて丁寧にお辞儀をしたかと思うと、そのまま玩具《おもちゃ》の上に屈み込んでしまいました。その子だということは初め一目見た時から、私にはよく分っていました。早速|手土産《てみやげ》の玩具を出して、こちらへおいでと云いましたが、いつまでもじっと縮み込んでいます。気がついてみるとお敏《とし》はしくしく泣いています。私も思わず涙が出て来ました。何と云ってよいか分りません。それに、あなた[#「あなた」に傍点]といったような調
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