神の光輝はあろう。彼の純粋無垢な詩情は、彼の情熱は、唯物論とか唯心論とかには関係なく、精神の純一な光耀から起るものではなかったか。それを彼はどこかに取り落して、愚鈍な不感症みたいになってしまったのであろうか。
私は彼の方へきっと向き直った。頬の肉が引きつるのを押し切って言った。
「わたしの行く通りについて来て下さいますか。」
「ついていくよ。」
「どんな所へでも。」
「ええ、どんな所へでも。」
事もなげな気安い返事だ。
私はくるりと向き直って、真直ぐに湖水へはいって行った。靴のまま、服と外套のまま、水へはいって行った。彼はすぐ私のあとからついてきた。冷徹な水は、膝から腰へ、腰から胸へ、ひたひたと迫ってくる。足先がしびれてくる。よろけかかって、首まで沈もうとした、とたんに、私は両肩を引戻された。
「ちょっと待って。忘れていた。僕は薬を持っている。あれを飲んでから、一緒にはいろう。」
切れ切れの言葉と共に、私は巨大な感じのする力に引き戻された。
ずぶぬれの姿を、私は湖岸の砂上に投げ出した。
なんという大きな力だったろう。そしてなんという分別くさい考慮だったろう。それだけで、なん
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