てきて、私にすがりつき、赤ん坊にすがりつきました。
「まあ、よかった。ここにいたのね……無事でいたのね……よかったわねえ……お母さんは、あなたがとんびにさらわれたと思って……さらわれたんだったら、どうしよう……まあ、よかったわね……」
 むちゅうになって、赤ん坊をだきしめて、さめざめと泣いてるんです。
 私はこまって、ぼんやり立っていました。
 村人たちがあつまってきました。
「赤ん坊がさらわれたのではなくて、よかったよ。だが、あれは何だろう」
 とんびはなにか赤いものを両足にひきつかんで、その両足をちぢめて腹にくっつけ、大きく羽をひろげて、羽ばたきひとつせず、ふうわりと宙にうかび、さもうれしそうになきながら、舞いとんでいます。日の光をいっぱいふくんだ青い空のまんなかに、その姿がつややかに光っています。
 村人たちは赤ん坊のいる家の名をあげたりして、心配そうにながめていました。
「あ、そうだ」
 柿《かき》のことがはっと頭にうかんで、私はかけだそうとしました。その私の肩を、誰かがとらえてゆすぶりました……。
 正夫が私をゆすぶってるのでした。
「本をよんで下さらないから、僕うとうとしちゃったんです。すると、柿《かき》がなくなってるんです」
 私もはっきり目をひらいて、見ると、梢《こずえ》の柿がいつのまにかなくなっていました。
 私たちは、柿の木の下にかけていきました。けれど、いくら探しても、あのまっかな柿はその辺におちてはいませんでした。わずかな間に、小鳥がたべてしまったはずもありません。
 とんびは……やはり一羽、空高く舞っていましたが、足には何にもつかんではいませんでした。ただいかにもうれしそうに、ピーヒョロヒョロと、ゆったり舞っていました。

      四 山の小僧《こぞう》

 山のなかは、冬になると、天気がわるいことが多く、そして雪がふりだすと、なかなかやまず、十四五センチもすぐにつもってしまいます。
 そういう時、私は西洋室の方にうつって、だんろに薪《まき》をどしどしたきます。正夫も私のところで、夜おそくまで話しこんでゆくことがありました。
 正夫は星の話をきくのがすきでした。私は知ってるだけのことを話してやりました。太陽系のこと、ことに金星のこと、それから水星や火星や木星や土星のこと、大熊星座《おおくませいざ》のなかの北斗七星《ほくとしちせい》のこと、小熊星座のなかの北極星のこと、次には、アンドロメーダ星座、ペルセウス星座、牽牛星《けんぎゅうせい》と織女星《しょくじょせい》、銀河《ぎんが》のこと、彗星《すいせい》のこと、そのほかいろいろのことを話しました。そして私がびっくりしたのは、正夫が空の星の図を、名前はわからないでもよく知ってることでした。
「さびしい時には星をみるがよいと、何かで読んだことがありました。それで僕はよく星をみてるんです」
 正夫はそういって、でもさびしそうにほほえみました。父も母も小さい時になくなって、正夫は一人者なので、小父《おじ》さん夫婦のところにひきとられてるのです。
「星をみてると、ほんとにいいんです。だれか親しいやさしい人が、こちらをじっと見ていてくれるような気がしますよ」
 それから正夫は、またさびしくほほえみました。
「冬になると、星の見えることが少ないからつまらないんです。それに、こんなに雪のふる晩は、急にさびしくなることがあります。だれか今にも来そうなんです。僕がよく知ってる人だが、どんな人だかはわからない、そういうへんな人が、やって来るような気がしますよ」
 私はだんろに薪《まき》をくべて、さかんにもやしました。あまりあつくなると、らんまの小窓を少しあけました。外には雪がふりしきっていました。
「でも、そんなへんな人でなく、おもしろいものが、ほんとにやって来ることもありますよ」
「どんなものが……」と私はたずねました。
「いろんなものです。鳥や獣《けだもの》や、それから……。あんな小窓をあけておくと、火にあたりにくるんでしょうね、狐《きつね》や狸《たぬき》がとびこんでくることもありますよ」
 私はらんまの小窓を見あげました。正夫は話しつづけました。
「それよりも、面白いのは鳥ですよ。いつだったか、部屋いっぱい鳥だらけになったことがあります。雀《すずめ》がとびこんできました。頬白《ほおじろ》がとびこんできました。つぐみがとびこんできました。山鳩《やまばと》がとびこんできました。烏《からす》がとびこんできました。そのほかいろいろな鳥が、次から次にとびこんできて、部屋いっぱいにならびました。ふしぎなことには、どれもみなだまってるんです。目ばかりぱちぱちうごかして、なき声は少しもたてないんです。そしておかしいのは、鷺《さぎ》ですよ みんなと[#「鷺《さぎ》ですよ みんなと」はマ
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