孤居を慰めるという口実で、私達は何度か彼の家で碁会をやった。集まる者は、大内兵衛、高倉テル、私など、少数だった。高倉君は人がわるく、言論戦でごまかして勝とうとした。三木もそれにつりこまれて憤慨的言論で応酬したが、碁の方はあまりうまくゆかなかった。
彼を相手にしてると、私は碁に気力がこもらなかった。勝負などはどうでもよく、ただ棋の運行が楽しまれた。同時にまた、どんな無茶な手でも平気で打てた。
碁に於てばかりでなく、すべてに於て、彼は最も気兼ねのいらない友だった。何を言っても、何をしても、彼に対してはてれるという気持ちが起らなかった。奥底に徹する深い理解が彼にあるという、一種の信頼感が持てたのである。
打明けたことを言えば、私は嘗て、芸妓と余りに公然と馴染を重ねて、友人間に物議を招いたことがある。芸妓と懇親な間柄になったのが悪いというのではなく、貧乏な身分柄も顧みず余りに公然とそうした振舞いをするのが、怪しからんというのである。ところが私としては、貧乏は持ち前のことだし、また、公然をてらったのでなく、所謂お忍び的行為が全然出来なかったまでのことである。――その頃、彼女と同席で最も気兼
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