した。その様子を、阮東は冷酷な眼付で眺めて、いいました。
「予がこの拳銃で処置してやるが、覚悟はよいか。」
五名のうちの一人が答えました。
「はい、覚悟をしております。私共が民兵団全部の責任を負い、その責任を私共の血で贖います。ついては、一つのお願いがあります。范司令殿の貴い血は、敵兵全部の血を以て償って頂きたいと思います。」
その言葉を聞いて、阮東は暫くじっと考えこんでいましたが、急に熱い血を顔に漲らして、立上って叫びました。
「よろしい、その願いは叶えてやる。そして君たちのことは、明日まで待っておれ。」
阮東はそういいすてて、自分の室へはいってゆきました。
その夕方、意外な通達が人々を驚かせました。范志清未亡人中敏は、これから阮東夫人になるというのでした。而もその晩、葬儀に引続いたその晩に、結婚の宴が催されました。
なにか名状し難い宴席でありました。そこに集った数十名の人々は、静かに飲食をしました。阮東の一身から或る強烈なものが発散して、一同はそれに気圧されてるようでありました。けれど彼は、見たところ無心そうに、范志清の一子を胸に抱いて、その子をあやして楽しんでるらしい様
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