父は飛び立って、呆然と彼を見つめました。
彼は足は棒のようで、上半身をわなわな震わしていましたが、その震えがやむと、そこに跪いていいました。
「お父さん、許して下さい。然し、私は、四年間も持ち続けた憤りの火が、次第に消えかかったので、家に帰って来ましたが、家に来て、また憤りの火が燃えだしました。大事な壺を壊した代りに、私は私自身を生かします。匪賊のことも、私に任して下さい。」
それから五年後の晩春の頃、阮家では范志清のために盛大な葬儀が行われました。
この間に、附近の情勢はすっかり改まっておりました。阮東が帰来した翌晩、三十人ばかりの匪賊を邸内で、謀略にかけて、半ば殺し半ば追い払ってから、阮東と范志清とは、その地方の人々を結合させることにかかりました。義勇民兵団が組織され、武器も次第に整備されました。幾度か匪賊の来襲もありましたが、それも大した損害がなくて撃退されました。
阮東の両親は相次いで病歿しました。阮東は一家の主人となってから、同族中の中敏という娘を范志清にめあわしました。そして次第に、一切の事を范志清に任せて、自らは本草学の研究に耽るようになりました。
范志清
前へ
次へ
全19ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング