る女中たちの中で、美喜はすぐれて美しいし、お父さんが特別に可愛がって、大事に召使っていられますから、身近に妹がいるとすれば、きっとあの美喜に違いないと僕は思ったのです。それでは、美喜は僕の妹ではないのですね。」
三英は元の前に進み出て、いきなりその胸に飛びついていいました。
「お父さん、僕たちは愛し合っているのです。それが、もし兄弟だったらどうしようかと、どんなに泣いたでしょう。兄弟ではないんですね。僕は嬉しい。美喜も喜ぶでしょう。すぐ知らしてやりましょう。こんなに嬉しいことはありません。」
三英は元の胸から飛びのいて、駆け出していってしまいました。
三英が飛びのいた反動で、元は椅子に倒れかかりましたが、そこで踏み止まって、暫くはじっとうつろな眼を宙に据えていました。やがて悪夢からさめたかのように、ぶるぶると首筋を震わして、突然わーっと大声を立てました。泣いてるのか笑ってるのか分らない大声で、なお喚き続けながら、そこの壁に頭をどしんどしんぶっつけました。唐草模様の美しい紙ではられてる壁面がまるく凹むかと思えるほど、頭をぶっつけ、狂人のように喚き立て、卓子の上の五彩の花瓶が転り落ち
前へ
次へ
全11ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング