することなんかない。何もすることがなくても、退屈しないし、何もしないでいても、退屈しないし、どんなに忙しくても、退屈しない。恵れた性格さ。ね、そうだろう、正夫君。
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正夫君と呼びかけて、時彦は初めて差し伸べた右手を下し、両手の甲を腰に当てがい、真直に突っ立ったまま口を利く。
[#ここで字下げ終わり]
時彦――いつだったか、面白いことがあったね。君は宿酔の体を日向に投げ出して、絵本を見ていた。開かれてる頁は、兎と亀の馳けっこの話の、兎が途中で昼寝をしてる、あのところだった。いつまでも君がそれを眺めてるし、しかも嬉しそうに眺めてるので、俺は不思議に思って、何をそんなに感心しているのかと、尋ねてみた。すると、この兎の昼寝は実にいいと、君は答えたね。あの昔話を、君が知らない筈はない。そしてそれに含まれてる教訓を、知らない筈はない。俺はその点を突っ込んでみた。ところが君は、そのような教訓など、頭からばかにしてかかっていて、ただ、競争の最中に昼寝した兎の無頓着さ、時間を無視した兎の無邪気さだけを、しきりに楽しんでいた。そこで、俺とちょっと議論になって、兎ならそれでも宜しいが
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