――おい、正夫君、僕たちにばかり饒舌らせないで、何とか言ってみたらどうだい。そのくせ、自分では退屈してるじゃないか。いったい、君は一日中何をしてるんだ。退屈ばかりしてるのか。時間をどんな風につぶしてるんだ。何とか言ってみないか。
[#ここから2字下げ]
議一は拳固でやたらに卓を叩きつける。正夫はじっと頬杖をついたままでいる。議一はなお卓を叩き続ける。
間。
議一の腕を、横合から一本の手が押え止める。そして手の主は、すっくと立ち上る。胴体が短く、足が長く、極端に痩せ細った男で、体にきっちり合った服を着てるので、火箸のようにひょろ長く見える。彼は突っ立ったまま、室内を睥睨するように見廻し、正夫に眼を止めて、右手を差し伸べ、更に人差指を一本差し伸べて、正夫を指し示す。
[#ここで字下げ終わり]
時彦――俺は時彦という者だが、この人をよく知っている。煩いから騒ぐのは止しなさい。この人は決して退屈なんかしていない。退屈したことなんか決してない。ただ、俺を軽蔑してるだけだ。言い換えれば、俺を無視してるだけだ。
――この人は恐ろしく懶け者だ。ただそれだけだ。だから、懶け者の癖として、決して退屈
前へ
次へ
全38ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング