と、嬉しそうに言う。中央の席にいた娘も、やはり同じことを言う。一階の席でも二階の席でも、同じことだ。映画とはそうしたもので、Nの眼は凡ての人を見てるので、つまり誰をも見ていないことになる。そういう画面の俳優のようであってほしくないと、君に僕たちは希望する。ここに眼のことを言うのは比喩であって、実は顔のことだ。君の顔がどっちに向いてるか、それが問題なんだ。
 ――顔を地面に向け、眼を足元に注ぐ、それは君の自由で僕たちはとやかく言いたくない。体の姿勢と精神の在りかたとは別物でないと君は言うが、それも一応は承認しておこう。然し、そういう体の姿勢、そういう精神の在りかたが、君がやはり僕たちの仲間だとすると、実は心配になるんだ。それは取りも直さず、病気か衰弱の兆候だからね。もう暫くこうしていたいとは、いったい何事だ。自滅を待つばかりじゃないか。
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議一は激しく卓を叩く。正夫はちらと顔を挙げるが、また顔を伏せて、静かに言う。
[#ここで字下げ終わり]
 正夫――僕は無理に死のうとは思わないし、それと同じ程度に、無理に生きようとも思わない。
 議一――ばかな。万事無抵抗主義で、
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