議一はふいに立ち上って、正夫をじっと見つめ、それからまた腰を下す。
[#ここで字下げ終わり]
 議一――それは君の今の姿勢だろう。そんなことを聞いてるんじゃない。僕たちが聞いてるのは、君の心の在りかた、精神の持ちかたのことだ。
 正夫――僕は、体の姿勢と精神の在りかたとを、別物だと考えてはいない。もう暫く、僕をこのまま放っといてくれ。
 議一――宜しい、君がそう言うなら、干渉はしない。然し……。
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沈黙。
[#ここで字下げ終わり]
 議一――さっき、僕たちは少し言い過ぎだったかも知れない。僕たちは君のことをやはり仲間だと思っているんだ。日本人の悪い癖で、些細なことからすぐに、右の陣営だの左の陣営だの、敵だの味方だのと、符牒を貼りたがる、そういう通弊に陥りたくはないのだ。然しまた、甘っぽい感傷や未練のために、思い違いをしたくもないのだ。
 ――例えば、映画を観る若い娘の話を持ち出してもいい。Nというスター俳優のファンだとする。右側の席にいた娘は、Nはこちらを向くといつも私の方を見ていたと、嬉しそうに言う。左側の席にいた娘も、Nはこちらを向くといつも私の方を見ていた
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