やるから。
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正夫は卓上の品々、酒瓶と蜜瓶と煙草缶と時計を、一つずつ取り上げ、窓へ投げつける。窓硝子の壊れる音がして、品々は外の闇の中に消える。――硝子の砕け散った窓が、ぽっかり口を開いている。正夫は一瞬、身を飜えすと、駆け出して行って、窓の穴から外へ飛び出してしまう。
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 議一――あ、いけない。しまった。
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議一は窓へ駆けつける。一同も駆けつける。他の窓も開けて、外を透し見る。
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 議一――ここは四階だ。無事に飛び降りられるものではない。体は粉微塵だ。行ってやろう。
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一同は足をめぐらして、窓と反対側にある扉を開き、廊下へ出て行く。
その時私(筆者)は、彼等の足音ばかりでなく、他のざわめきをも、確かに聞いた。眼に見える彼等ばかりでなく、他に多くの者が室内にいたに違いない。そして正夫は、それら多くの者の前に、曝しものとなっていたのであろう。それを思って、私はぞっとした。だが、一人残らず皆が出て行った後、室内はしんしんと静まり返り、更に深く静まり返ってゆくのが、耳にも感じ肌に
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