も、俺たちの方で押しかけて行こうか。
議一――おい、君たち、もっと静かにしてくれ。正夫君は初めから、もう暫く放っといて貰いたいと、僕に頼んだ。その通りにしておいてやろうじゃないか。
煙吉――だから、俺たちは、静かに贈物を捧げたんだ。よけいな干渉はしないよ。
時彦――それも、時によりけりだ。どうも、正夫君を一人きりにしておきたくないね。
愛子――そうよ、そうよ。あたし行って、連れて来よう。
煙吉――まあ待て。
[#ここから2字下げ]
正夫は卓上にある品々を眺める。酒瓶を取って、ぐっと飲む。蜂蜜の瓶を取って、口一杯嘗める。再び酒をぐっと飲む。時計を取り上げて、時刻を見る。それから、缶の煙草を一本取って、悠々と吹かす。――その一々の動作を、一同は見守る。
[#ここで字下げ終わり]
正夫――僕がここでやってることが、どういう意味だか、君たちに分るか。お別れの挨拶だぞ。もうたくさんだ、きっぱり別れよう。だが、僕は卑怯に逃げ隠れするのではない。僕にも多少の意地と体面とがある。そして君たちに思い知らせてやりたいんだ。そうだ、思い知らせてやる、こいつは素晴しいことだ。見ておれ、思い知らせて
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