。
正夫――僕にとっては、今のところ、自分一人のことで一杯だ。然し、あのひとが言ったことは、なかなか参考になった。或は、僕になにか教えるつもりで言ったのかも知れない。ただ、世代の違いから来る不理解な点があるのは、止むを得ないだろう。
議一――どういう点が不理解なんだ。
正夫――解決の方法が違う。
議一――何の解決なんだ。
正夫――それはいずれ見せてやるよ。
愛子――あら、正夫さんが話をしてるわ。
[#ここから2字下げ]
一同は正夫の方を見る。――おかしなことに、彼等は最初立ち上った時からずっと立ち続けてるのだ。
[#ここで字下げ終わり]
酒太郎――ほう、悪びれずにこっちを見てるね。その通り、元気を出すんだ。そして、まあ酒でも飲めよ。俺たちはもうずいぶん酔っ払った。さっき、君のお母さんとかいうひとから、だいぶ意見をされたが、君も聞いたろう。面白いことを言うひとだ。酒に溺れる、煙草に溺れる、女に溺れる、仕事に溺れる、それが現代の通弊だってさ。通弊というものは、然し、時代思潮みたいなもので、一通りは身につけておくべきものだ。だから、溺れて構わん。どうだ、こっちに来ないか。それと
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