も感じられて、何とも言えない恐ろしい思いだった。開け放されたままの窓から、開け放されたままの扉へと、冷たい夜気が流れていった。ふと見廻すと、円卓の上の饗宴の品々は、奇蹟のように消え失せていた。どうなったのであろうか。まさか彼等は魔法使ではなかったろうが、不思議極まる事態だった。考えてる時、また奇怪にも、天井の電灯がふっと消えた。室内は闇にとざされた。
寸時の躊躇の後、私は手探り足探りで、窓の方へ近づいて行った。窓口が、仄かな明るみで浮き出していた。窓から身を乗り出して覗いてみたが、戸外には深々と闇が湛えているきりだった。樹木も見えず、他の建物も見えなかった。窓の下方の地面も見えず、何一つ見えず、燈火も見えず、人声どころか、物音一つ聞えなかった。正夫や、其他の者たちは、どうなったのであろうか。忽然と消え失せたとしか思えなかった。私は夢をみたのであろうか。茫然とそこに佇むばかりだった。
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底本:「豊島与志雄著作集 第五巻(小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]・戯曲)」未来社
1966(昭和41)年11月15日第1刷発行
初出:「群像」
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