り]
時彦――どうもおかしいぞ。俺たちは誰も、ひとの髪の毛なんか引っ張ってはいないね。そして誰からか引っ張られてる。振り向いても誰もいない。然し引っ張られてることは確かだ。これは、酔っ払ったせいじゃない。何かある。奇怪極まる。
愛子――なんでしょうね。あたしなんだか怖くなっちゃった。
酒太郎――なあに、こんどやったら、俺が引っ捕えてみせる。
煙吉――世の中には理外の理ということもある。お化じゃないか。お化だったら面白いぞ。お化、出て来い。
[#ここから2字下げ]
何かの気配を感じて、警戒するかのように、一同は一つ所に寄り集まる。
一同の正面、つまり正夫を背後にして円卓の一端に、ぼんやりと人影が現われる。白髪の老女で、薄鼠色の和服を着ているが、全体がぼやけて形体は定かでない。――このあたりから、正夫は顔を挙げて、やはり卓上に頬杖をついているが、眼は伏せず、一同の方をぼんやり眺めている。
[#ここで字下げ終わり]
老女――お前さんたちの髪の毛を引っ張ったのは、このわたしだよ。なあに、ちょっとした悪戯さ。気味わるがらなくてもいいよ。悪意はないんだからね。
――お前さんたちには、古
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