酒を飲み、煙草をふかし、真珠菓子をかじり、蜂蜜まで嘗める。――その乱雑な光景を、議一は少しわきの方に突っ立ったまま、茫然と眺めている。
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 愛子――あんた、そんなところに突っ立ったきりで、どうしたのよ。ばかみたい。こっちい来て、仲間にはいりなさいよ。構わないわよ。
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議一はおずおず近寄って、酒盛の仲間にはいる。そして彼一人だけ、椅子に腰を下す。
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 煙吉――少し動きたくなった。歌でもうたいたくなった。お前たちはどうだい。
 時彦――よしきた。元気にいこう。
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時彦が音頭を取って、ラ・マルセイエーズを歌い出し、一同それに和して歌いながら卓を叩いて拍子を取る。議一ひとり黙っている。
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 愛子――あんた、なぜ歌わないの。
 議一――僕は、そんなバター臭い歌は知らないんだよ。
 愛子――まあ、フランスの国歌じゃないの。そんなら、何を知ってるの。
 議一――そうさなあ。ノーエ節ぐらいなもんかな。
 愛子――ノーエ節……。ああ、富士の白雪というあれでしょう。
 酒太郎――宜しい、こん
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