く……。
 ――俺はその時うっかり聞き流したが、うまくゆくとは、どういう意味だったろうか。俺だって疑いたくなろうじゃないか。まさか、酒を止めようなどと、謀反気を起してるんじゃあるまいね。俺と君とは長い間の仲だ。そして、島流しの刑に処せられて、一方は女だけの島で酒はなく、一方は酒だけの島で女の気はないが、どちらへ行くかと聞かれたら、もちろん、酒の島を選ぶと、ふだん言明してる君のことだ。まさかとは思うが、気になるね。
 ――二合とか三合とか小刻みに取り寄せるのは、禁酒の前提として減酒をする、という下心じゃあるまいね。それから、酔っ払うと君は、たいへん怒りっぽくなった。もとは、にこにこした和やかな酒だった。そうでなくなったのは、また飲み過ぎたと、自分自身に腹を立ててるんじゃあるまいね。もしそうだとすると、俺にも少し考えがある。ただでは済まさないから、覚悟しておいて貰いたいものだ。正夫君、どうなんだい。酒で顔でも洗って、きっぱり返答しないか。
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正夫は顔を挙げて、じっと酒太郎を見つめ、険悪な表情をするが、思い返したように、また俯向いてしまう。
酒太郎のそばから、小さな男が
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