くめだが、ただ一つ困るのは、金が乏しいことだ。財産があるわけではなし、雑誌や新聞に書き散らす雑文の原稿料だって高が知れたものだし、「黎明」だって購読料月三十円ではいくらの収入にもなるまい。だから、「黎明」への怪しい寄附金も時には欲しくなろうというものだ。然し、どうにか生計を立てて来たのは感心。借金だってそう沢山はないだろうね。もっとも、飲み代なんてものはどこからか出て来るものさ。
――それはとにかく、この頃、どうも俺の腑に落ちないことがある。まさか君は、この俺に背を向けるつもりじゃあるまいね。というのは、酒の取り方が違ってきた。二合とか、三合とか、また二合とか、三合とか、日に何度も酒屋へ電話をかけるじゃないか。酒屋でも呆れてるだろうよ。どうかすると朝っぱらから、そして晩まで続く。一日に一升以上になることも多い。そんなだったら、小刻みに取らないで、初めから一升壜を取り寄せたらいいじゃないか。いつぞや、愛子にからかわれたろう。二合とか三合とか、そう何度も電話をかけるから、電話料だって大変だ。あたしだったら、初めから一升壜を註文して、それを食卓の上にでんと据える。そうすれば、きっとうまくゆ
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