、徳義無視を標榜しても、社会生活には多少とも一種のエチケットが必要だから、痛手を与えた相手の前へ、のこのこ出て行きかねるという意味合いもあろうというものだ。少くともいくらかの気兼ねがあろうじゃないか。すっかり忘れてしまえば、どうでも宜しい。酔っ払い罷り通るというものだ。
――ところで、ちょっと注意しておくがね。後でけろりと忘れるにしても、酔っ払ったその時の君の態度にせよ言葉にせよ、少しも取り乱したところがなく、むしろ素面の時よりも立派なほどだ。だから、相手には君が酔っ払ってることがよく分らない。そういう酔い方は、ぐでんぐでんの酔い方よりも、よほど危険だぜ。とんだ誤解を招く恐れがある。用件なんかいくら忘れたって構やしない。冗談なんかいくら飛ばしたって構やしない。だが、相手が生真面目な女性だとか、謹厳な君子人だとかの場合には、後から弁解のしようもないことに立ち到らないとも限らない。この点は用心したがいいぜ。
――とにかく、君のは乱れない酒で、甚だ結構。口数が多くなるのも、胸中がすっきりする結果になって、甚だ結構。見識らぬ人にでも誰にでも話しかけるのも、万人同胞の意味で、甚だ結構。結構づ
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