も太く、手足も太く、殊に腹はでっぷりしている。その上、ひどくだぶだぶの服を着ているので、よけい肥満して見える。
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 酒太郎――この酒太郎に言わせると、そりゃ愛子の方が無理だ。何もはっきりした理由もないのに、徒らに難癖をつけるというものだ。どだい、女の言うことは、すべて主観的でいかん。俺が本当に客観的なことを言ってやろう。それなら承認出来るだろう、ね、正夫君。
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正夫はちらと顔を挙げて、不思議そうに酒太郎の方を眺め、急に顔をしかめて俯向く。
酒太郎は両腕を差し出し、指をすっかり開いた両の掌をちらちら動かす。
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 酒太郎――いつも君は丈夫で、いいなあ。だから俺は君が好きさ。酒を飲みすぎると体に障る、と言う奴もいるが、そんなことに耳を貸しちゃいかん。遠慮会釈なく飲むがいいよ。
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酒太郎は両手を腰にあてて、正夫をじっと見る。そのそばで、体をくねくねさしてる愛子こそ、酔っ払ってるように見える。
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 酒太郎――正夫君、君の酔いっぷりは甚だよろしい。世の中の者、たいてい阿呆だから、何度
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