たぞ、卑怯者とね。
――然し、君が如何に卑怯者で自信家で懶け者であり、そしてこの俺を無視しようとしても、そうはいかないぞ。結局は、俺の一歩一歩に、時間の一秒一秒に、ついて来なければならない。決定的な鉄鎖でつながれているんだ。いくらじたばたしようと、いくら※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]こうと、どうにもならないぞ。
――だから、いっそのこと、俺に従順になってはどうだ。そっぽ向かないで、俺の方をじっと見るがいい。ずいぶんと可愛がってやるよ。そしたら君は、昂然と頭をもたげて歩けるだろう。如何なる場合にも自由に口が利けるだろう。さあどうだ、俺に素直について来い。そっぽ向かないで、俺の方にだけ眼を向けろよ。
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時彦は正夫の注意を惹こうとするかのように、卓をことこと叩く。だが正夫は、顔を伏せたきりで、前よりも一層項垂れて、額を両の掌でかかえている。時彦のそばから、女が一人立ち上る。赤い服装。体も四肢もへんにくねくねして、骨の代りにぜんまいでもはいってるように見える。
[#ここで字下げ終わり]
愛子――愛子にも言い分があるわ。あんた一人で正夫さんを独占しよう
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