としても、そうはいきませんよ。ねえ、正夫さん。
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正夫は顔を挙げて、不思議そうに愛子を眺め、そしてまたすぐに顔を伏せてしまう。
愛子は正夫の方に片腕を差し伸べ、人差指と中指とを二本差し出し、その手をふらふらと打ち振る。
[#ここで字下げ終わり]
 愛子――正夫さん、正夫さん……愛子の方を見てごらんなさい。そっぽ向くもんじゃないわ。
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愛子は突然笑いだして、腕を引っこめ、両手を腰にあてがい、時彦と同じような姿勢を取る。ただ、時彦は棒みたいに突っ立っているが、愛子は始終、体をくねくねと動かす。
[#ここで字下げ終わり]
 愛子――正夫さん、時彦なんかに騙されちゃだめよ。あんたはすぐ人に騙されるたちだからね。騙されるなら、あたしに騙されなさい。だって、あんたは愛子が好きでしょう。いつも愛子、愛子って、あたしのそばにつきっきりじゃないの。あたしが外に出かけて、帰りが少し遅くなると、あんたはごろりと寝ころんでいて、声をかけても、すねたように返事をしない。そのくせ、眼には一杯涙ぐんでるわね。愛子がいないのが淋しかったんでしょう。その涙を見ると、あたしほん
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