わからないほどまっ暗な森でした。次には怪物の洞穴《ほらあな》がありました。見ただけでもぞっとするような恐ろしい怪物が、幾つもの洞穴の中に唸《うな》っていました。次には火の砂漠がありました。広々とした砂漠に一面に火が燃え立っていました。ハムーチャは眼をつぶって、一生懸命に駆けぬけました。火の砂漠を駆けぬけた時には、もう眼がくらみ息がつまって、地面に倒れたまま、気を失ってしまいました。
しばらくたつと、「ハムーチャ、ハムーチャ」と呼ぶような声がしましたので、彼ははっと眼を開きました。見れば、白木造《しらきつく》りのささやかな家の中に自分は寝ているのでした。枕もとには一人の気高《けだか》い人が座っていました。まっ白な服装《ふくそう》をし、頭に白布を巻いた、年齢《とし》のほどはわからない人でした。ハムーチャが眼を開いたのを見て、静かに微笑《ほほえ》んで言いました。
「ハムーチャ、わたしはお前が来ることを知って迎えてあげたのだ。今までに幾人《いくにん》となく、わしをたずねて来かかった者はあるが、みな途中で引き返してしまった。それなのにお前は、たとえ命がけとはいえ、よくもこれまでやって来た」
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